まず、行政書士が行う業務を法律で見る次のとおりです。(約)

行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。

ただし、他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
+書類の作成について相談に応ずること。

特定行政書士は、官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成。

要約すると、許認可と権利義務又は事実証明に関する書類を作成する。さらにその書類を代理人と作成することもできる。また、その書類について相談に応じる事です。これが法律上の行政書士業務です。

対して、弁護士の業務は次のとおりです。

弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。

要約すると、訴訟に関する行為などの法律事務を行うのが弁護士の業務です。

行政書士の抱える業務問題

常に問題となるのが行政書士の「権利義務又は事実証明に関する書類」という部分で、弁護士法72条違反と指摘されることが多いです。もっともこれは行政書士に限らず、弁護士以外の士業全てが抱える問題です。

*弁護士法72条とは次のとおりです。

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない

要約すると、弁護士以外は法律事務は出来ないが他の法律で許されているものは問題ない。おそらく、この「その他の法律で許されている法律事務」というのは税理士の税務代理だったり、司法書士の登記申請代理だと思います。これらは比較的明確に区別が可能です。

しかし、行政書士は「権利義務又は事実証明に関する書類」が、どのような書類か?という解釈次第によって弁護士法72法に抵触してしまうという際どい問題を抱えています。

私が思うに行政書士が作成する「権利義務又は事実証明に関する書類」というのは、同じ行政書士法の条文上に定められている「官公署に提出する書類」と同レベルのものでないといけないと思っています。

この論理で言えば、家系図の作成は行政書士の業務とはいえません。なぜなら、家系図は一般的に官公署に提出することはないからです。家系図は殆どの場合は一族内部の資料という位置づけです。

世間では行政書士の「権利義務又は事実証明に関する書類」が弁護士法72条にある「ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない 」という”他の法律”に該当するから、行政書士は「権利義務又は事実証明に関する書類」であれば何でもできるのだ~という主張をよく見かけます。

しかし私は「官公署に提出する書類と同レベルの権利義務又は事実証明に関する書類」に限り弁護士法72条の”他の法律”に該当すると考えています。行政書士法にも「他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。」とあるので、前述の「なんでも作成説」の主張は無理だと思います。

このように考えると、弁護士法と行政書士法の両方にある「他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」という但し書きは、どちらが優先という問題ではなく、弁護士法と行政書士法が其々特別法として優先しあうものと思うに至ります。もっとも、弁護士は行政書士登録ができるので、弁護士に業務制限はないと考えます。

平成27年9月の高裁の判断では、

弁護士法72条のいう「その他一般の法律事件」とは、同条において列挙された事件と同視しうる程度に法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解するのが相当

というのがあります。

ここでの「列挙された事件」とは「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解」の事ですが、私は行政書士法の解釈もこれと同じ方法で良いと考えています。

すると、「官公署に提出する書類と同じレベルの権利義務又は事実証明に関する書類」の解釈について、具体的にどこまでが行政書士に許されるのか?というのが問題になります。私の判断基準は「同業が行っているかどうか」「社会的に認められているかどうか(常識で考えて妥当か)」「過去に72条違反で刑事罰がなされたかどうか」のいずれかです。

私はこのような考え方で行政書士業務を行っています。

実際の行政書士処分事例

平成28年3月に交通事故業務を取り扱う兵庫県の行政書士(以下、A書士)が弁護士法72条・74条の違反で2ヶ月の業務停止処分を受けました。

A書士は、正直いって無謀。HPで「法律相談」と表記するなど、弁護士法74条の「法律相談を取り扱う旨の標示又は記載をしてはならない」 に確実に違反しています。さらに「示談代行」などと表記するなど、本当に法律の勉強をしたのか?と思うほどの無謀ぶりでした。聞くところによれば、業務委任契約書にも「示談代行」を業務であると記載し、尋常でない報酬を後出しで請求していたとか。

A書士は平成26年6月12日大阪高裁判決でも「交通事故の報酬をきちんと払え」と被害者側を相手に訴訟を提起していますが、実は今日はじめてのこの判決文を読みました。大変興味深い内容となっていますが、これについては次回説明してみます。