法律による業務の制限
いわゆる士業には、法律でその独占業務(士業以外は行ってはダメなこと)が定められています。
独占業務には、有償独占(報酬を得るとダメ)と無償独占(報酬を得なくともダメ)に分けることができますが、ほとんどは有償独占とされています。有償独占とは、報酬をもらって行うことはダメという事です。
例えば行政書士であれば次のように、官公署に提出する書類、その他権利義務又は事実証明に関する書類の作成が独占業務にあたります。
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
そして行政書士業務は有償独占です。これは条文上で「報酬を得て」と明記されていることから当然といえる解釈です。
弁護士業務は有償独占だが無償独占も
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
このように弁護士法では「報酬を得る目的で」と条文に記載されているので、明らかに有償独占といえます。もっとも、他の法律で訴訟代理は弁護士のみとされているので、そのような部分は無償独占といえます。
税理士業務は無料でも行ってはダメ
税理士の独占業務は、税務代理、税務署類の作成、税務相談です。
そして、この税理士業務は無償独占であると言われています。
条文では次のとおり定められています。
税理士は、他人の求めに応じ、租税(中略)、法定外目的税
(中略)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
(以下略)
どこにも無償独占とは書いてありませんが、「報酬を得て」という文言がない事が「無償独占」の根拠になると言われる場合もあります。
しかし、条文に「業とする」という文言がある以上は、報酬を得るのは当然だと解釈できます。(業とは、反復継続した事業の遂行といえるものをいい、そういったことを無償で行い続けるのは不可能といえるからです)
もっとも、法律ではなく通達になりますが、国税庁によれば税理士業務に該当するといえるものは「必ずしも有償であることを要しない」と言っていますので、基本的には税務相談は無料でも行ってはダメという事になります。
ただ、法律ではなくあくまでも行政の通達なので、一般国民に対して強制力はなく、無償独占だと言い切るだけの根拠としては少し薄弱といわざるを得ません。
税理士業務と弁護士
ちなみに、弁護士法には「弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。」という条文があります。一見すると弁護士であれば、何も問題なく税理士業務を行えるようにも思えますが、実際には「国税局長に対して通知」を行わなければ税理士業務を行うことはできません。
他の無償独占(医師)
医師は士業ではありませんが、無償独占といえます。
条文は次の通りです。
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
とてもシンプルでわかりやすいです。
ここにも「業」という文字がありますが、医師以外が行おうとしても、傷害罪などの他の法律に違反するので、結局は無償独占だと解釈できます。
法律は難しく複雑だ
弁護士業務の訴訟代理や医業で触れたように、士業について定める法律だけでは、本当の意味で「無償でも独占業務なのか」という判断は難しいといえます。加えて、「業」という意味の解釈や「報酬」の範囲などについても全国共通で一律な解釈が存在するとは言えません。
具体的な事案に対しては、その解釈次第で結論が変わってくることになります。
これは法律一般でもいえることで、当然に法律を扱う士業はこのような複雑な法律を理解していることが前提とされています。
じゃあその定義を法律で決めればよいではないかと思うかもしれませんが、法律は正確かつ厳密に作られていて、その結果として象徴的な表現になっています。これにより多くの具体的な事象に適用が行えるようになっています。
話がそれてきそうなので、続きはまたの機会にしたいと思います。