まえがき

常に冬は暖かく、常に夏は涼しい一戸建て。これだけならば、その住宅に空調設備(エアコンなど)等があれば、24時間稼働させることで簡単に実現できます。しかし、日本の最高気温は上がってきており、歴代最高気温の上位10地点のうち8地点が2018年以降に記録されたものです。

住宅の断熱性能は断熱材の種類や施工方法、施工の技術などによって異なります。計算上は一定基準以上を満たしている住宅でも、施工の技術によって基準を下回ることは多々あります。「技術って?」という問いかけには、断熱材の製造(販売)メーカーが「断熱材の施工方法」として定めている断熱材の正しい基準といえる施工方法と胸を張って答えることができます。

求められる断熱の基準

国が定める住宅の断熱に関する基準は徐々に高くなっています。

もっとも、国の断熱基準というよりも、「省エネ法の基準を満たすために求められる断熱性能」の方が正しいですが、そもそも、その省エネ値の算出方法それ自体が変更される(Q値→Ua値変更。後述)ので、年代別に単純に比較するのは困難です。

しいて言えば、1980年の天井の断熱材の厚みは35ミリ、1992年の基準では50ミリ、 1999年だと115ミリ、2013年では140ミリ、これからは180ミリという具合になります。割とざっくりした言い方ですが、断熱材の種類や性能によって変わるものなので、数字が増えているところを感覚的に捉えてください。*一応、断熱材は無機質系断熱材(グラウウールやロックウールのこと)を想定しています。

ちなみに、地域別に設定されている断熱(省エネ)の基準ですが、いまではその地域も6地域から8地域に細分化されています。

断熱を数値に。Q値からUA値へ

断熱性能を値で示すときに使われる数値が、平成25年までは年間暖冷房負荷/熱損失係数(Q値)・夏期日射取得係数(μ値)でしたが、平成25年以降は外皮平均熱貫流率(UA値)・冷房期の平均日射熱取得率(ηA値)で表すことになりました。

わかりやすく言うと床面積から省エネ基準値を計算していた方法から、床や壁、天井、開口に至るまで家全体から省エネ基準値を計算するように変わりました。これにより、よりきめ細かな断熱基準が生じたことになります。

【本題】断熱性能は光熱費に直結する

当たり前のことですが、断熱性能が優れていると、冷暖房費が抑えられます。ただ、断熱性能は机上の計算で算出できます。しかし、決められた断熱材を用いても、その施工が正しく行われていない場合はどうでしょうか。

これは期待された断熱性能にならず、ともすればエアコンが効きにくい暑い家、なぜかいつも寒い家となってしまいます。(壁で隠れてしまう断熱材の目視による現場検査は行われません。)とはいえ通常は冷暖房機器を使えば凌ぐことができます。しかし冷暖房機器が働くには電力やガスが必要です。窓を24時間全開にして冷暖房を使うことがないのと同じように、24時間同じ状態の断熱材が電力等に影響することを考えるとどうでしょうか。

断熱材の施工は難しい

「断熱材は壁に埋めこめば良い」というだけの認識ではなく、「断熱材は正しく施工されてはじめてその効果がでる」という認識が必要です。これは地域と断熱の種類、床壁天井、で異なります。

例えば、「このあたりがとても寒いから見てほしい」という飛び込みの方の新築一戸建て住宅を確認したところ、リビングの一角がほとんど屋外状態になっていました。

住宅の断熱サーモグラフィグラス

画像では青いほど温度が低い(赤いほど温度が高い)という事になりますが、これは柱の間を埋める断熱材(袋入りグラスウール)を施工するときに、筋交いの結束部分やホールダウン金物部分に対して正しく施工が行われなかったために生じたものです。

その後、改めて近くのコンセントボックスからマイクロファイバーで確認しましたが間違いないようです。

こういった部分の断熱材を正しく施工するには、断熱材を現場で加工する必要があります。ただ、その加工する時間で通常の断熱材を5枚施行することができるので、仮に建物全体でこういった現場で加工するのが8カ所存在するとすれば、40枚の断熱材を施工できる時間が必要になります。これはリビングの単純な断熱施工時間よりも長いです。

職人さんにとっては、それだけ手間(作業時間の事)のかかることなので、加工を端折ってしまった結果となります。

もっとも、これで問題ないという認識の職人さんも多いのが事実です。(見えないところはクレームにならず、現場の作業は同じく続けられる)さらに、地域によってはこれが正しいとされる場合もあり、大変難しい事なのは事実です。そもそも問題なのは、鉄筋工や配管工などのように、断熱工という専門の職人さんがほとんどいない事です。

もちろん、手直しは可能です。壁を取り除くことになりますが。(壁紙からすべてを張り替えることになります)